
渡仏目前
二日後、リモワのスーツケースが郵送されて自宅に届き、買ったばかりの新品のスーツケースを家族に見せびらかした。
みんなが口を揃えて、「キレイだ。品がある」と口にする。
ぼくの選択はやはり正しかったことを再確認し、このスーツケースをとても誇らしく思った。
これなら家族の誰が使っても恥ずかしくないだろうし、将来自分に子供ができたとき、孫ができたときまで使ってもらえるだろうとも思えた。
確かに値は張ったが、長きにわたって使えるのならば、そんなに高い買い物ではない。
最初はピカピカのスーツケースが旅行の過程で徐々に傷が付き、段々と味を出していく。
それはまるでヴィンテージの年季の入ったギターをぼくに連想させた。
このスーツケースはこれから相棒となって、ぼくとともに世界を旅するのだ。
それから、近づくフランス旅行に向けて、ぼくはフランス語の本を買ってみた。
しかし、最初に買ったのは清岡智比古の文法書。
この本を買った理由は単純で、アマゾンで「フランス語」と検索をしたら、この本が一番上に出ていたから。
パラパラとめくって見るが、全然頭に入って来ない。
ぼくはここで、買う本を間違えたことを悟った。
それもそのはず、通常文法書には旅行で必要とされる会話に重きは置かれていない。
ぼくは、手軽なことりっぷフランス語を再度購入し、それをフランスに持っていくことにした。
初海外ということで、ぼくはとても思い上がっていた。
できる限りオシャレをしてフランスの街を歩きたくて、衣類の選定に悩んだ。
次回の就活に向けて新しく調達したスーツを持っていくことにした。
スーツを着ながらパリの街を歩くとぼくは決めていた。
旅行前日の夜。なぜだかわからないが、あまり良く寝付けなかった。
空港への集合時間は夜の八時。
フライト当日の午後に地元を出発し、強い日差しを感じながらぼくは初めて成田空港へと足を運んだ。
もう、このときからすでに「旅」は始まっていたのだ。
つづく。