今回はDIR EN GREYの七枚目のアルバム"UROBOROS"についてご紹介します。
これまでのアルバムの紹介記事はこちらからどうぞ!
UROBOROSについて
オリジナル発売日 2008年11月12日
リマスタリング盤発売日 2012年1月11日
本作はDIR EN GREYの金字塔的作品。
six Ugly以降からのヘヴィ路線がここで一つの集大成を迎えます。
ガテラル、グロウルが今作から使われ始め、元々定評のあったシャウトがさらにまた磨きをかけて
本項では2012年にリマスタリングを施された[Remastered & Expanded]を扱います。
本ミキシングは次作「DUM SPIRO SPERO」を手掛けたTud Madsenが行っているため、音の質感が両者近いのも特徴。
2008年のオリジナルと2012年リリースのマスタリング盤を聴き比べてみるのも面白いですね。
当時、UROBORSリリース後のツアーはライブハウスが大半で、チケットは激戦だったのが懐かしいです。
ちなみにこれには、設備的に簡素な小さめのライブハウスであえて演ることによって、UROBOROSがどのように化けるかを試したかったというメンバーの意向があったとのこと。
UROBOROS 収録曲レビュー
1. SA BIR
導入部分がオリジナルの2008年のものより長くなっています。
オリエンタルな音色とそこに絡まる京のシャウトが儀式めいた雰囲気を醸し出し、これから何かが始まるというリスナーの高揚感を刺激。
この始まりはかつてのMACABREのおどろおどろしい雰囲気にも通じるものがあります。
2. VINUSHUKA
長尺、渾身の一曲。
DIR EN GREYの美学が詰まった代名詞とも言える一曲。
ここにUROBOROSの真髄があると言っても過言ではなく、SE後の実質一曲目であるにも関わらず、いきなり絶頂を迎えます。
VINUSHKAがロシア語で「罪」と言う意味を持つことは、もはやファンの間では有名ですね。
バンドアンサンブルも複雑で、個々のスキルが楽曲に反映されています。
3. RED SOIL
曲の尺は3分半未満と短いですが、展開が変態的(メロディの繰り返しがほとんどなく、どんどん進行が展開していくから余計そう感じるのかも)で、サビというサビがないのも特徴。
2分31からのシャウトのカオスっぷりは必聴。
時折挟まれるメロディは耳馴染みがよく、曲全体を通して比較的聴きやすい印象を与えます。
4. 慟哭と去りぬ
風とともに去りぬ、ならぬ慟哭と去りぬ!
「曖昧な反逆感情」という部分がメッチャ気持ち良き!これ、分かりますよね!?
リズムが複雑で拍が取り辛い!三拍子が混ざっているのは分かるのですが、変拍子も混ざっているのでしょうか?
5. 蜷局
メロウなナンバー。
所々コーランを彷彿させるようなメロディが曲を宗教的な印象を与えます。
最後のサビはオクターブ上まで跳ね上がります。
6. GLASS SKIN
先行シングル。
アルバム内では唯一、シャウトとヘヴィなリフがない稀な曲。
2008年のヴァージョンでは英詩でしたが、ここでは本来の日本語詩を収録。
これまでピアノをフューチャーした楽曲は何曲か過去にありましたが(「ain't afraid to die」、「CONCIEVED SORROW」等)、それらとはまた印象が違います。
ディレイの効いたピアノ音色がどこか儚げな印象を与え、サスティーンの効いた薫のフレーズが曲をどこか浮遊感ある存在に仕立てあげているのも特徴。
7. STUCK MAN
跳ねる独特のリズムとそこに絡むスラップベースが格好いい。
立ち位置的に目立った曲ではないですが、ギミックが効いて凝っています。
個人的に曲の持つ雰囲気はsix Uglyの楽曲に近いミクスチャー要素を感じます。
8. 冷血なりせば
タイトルはゴリゴリの日本語ですが、詩は全編英詩というギャップ!
途中のブレイクが宗教じみた感じで曲の混沌さを際立てています。
MACABRE収録のHydraと言い、こういう異色なブレイクを入れるバンドはDIR以外に知りません(笑
「なりせば」とは何ぞや?と調べたところ、「だから」という意味があるようです。
つまり、「冷血だから」と解釈できます。
しかし、冷血というワードは何よりもCageを連想させます!笑
9. 我、闇とて・・・
アコギをメインに取り入れたメロディ重視の曲。
しかし、毛色は「undecided」とも「蟲-mushi-」ともまた一味違います。
こちらの方がもっと叙情的で、オーディエンスとの距離を描いたと思われる詩世界が特徴。
表現者という立場から、聴衆はどう写っているのか?そんな視点が垣間見れます。
華やかしい舞台上とは裏腹に、バンドの核として楽器隊そしてオーディエンスを引っ張っていく上での葛藤、孤独がここには表現されているような気がします。
それはどこか、VULGARの「AMBER」でも描かれていた詩世界にも通ずるのではないかと。
10. HYDRA -666-
「MACABRE」収録のHydraを再構築。
原曲のアレンジは影を潜め、新曲と言っても違和感がない変貌振り。
原曲はインダストリアっぽさがありましたが、こちらではそれらの要素は排除され、代わりに宗教的な混沌と妖艶さが詰め込まれています。
原曲では数行しかなかった詩も書き換えられ、本曲ではより難解で抽象的な表現になっています。
SIDと出てくる部分は原曲のSid Viciousへのオマージュでしょうか。
11. BUGABOO RESPIRA
今日のアカペラがメインとなった次曲への繋ぎ。
たまに聞こえるトントンなっている音が何なのか気になります!笑
12. BUGABOO
ちなみにBUGABOOには恐怖の種という意味があります。
複雑な曲展開。
正直、この曲を言葉で表現するのは難しく、簡単に言えばマニアックな曲です。
でも、とてもDIRらしい。
13. 凱歌、沈黙が眠る頃
イントロを効いた瞬間、Dieの兄貴がギターを立てながらタッピングする姿が浮かんで来るであろう!
鴉-karasu-では薫がタッピングしてますが、この曲はDieです。
音的にはギターと言うよりかはシンセのシーケンス、サイン波っぽい響きがします。
頭では静けさを感じさせ、京の吐息、そこからシャウトを交えて一気に畳みかけるように激情していくのが最高です!
「沈黙が眠る頃(すなわち、沈黙ではない状態)」が意味するのは、喧騒でしょうか?
14. DOZING GREEN
先行シングル。
どことなくドロドロとした和の雰囲気を感じるのは自分だけでしょうか。
2012年のリマスタリング盤では「GLASS SKIN」同様に日本語詩を採用。
情緒的なメロディに合わせるヘヴィなリフはフォークメタル的な匂いを感じます。
手数が多いのは相変わらずなShinyaのドラムですが、この曲では珍しくビート寄りの演奏。
最後のヴォーカルの余韻を残して終わるところが絶妙で(要は普通ではない)、DIR EN GREYという美学を感じます。
15. INCONVENIENT IDEAL
本アルバムを締め括るのに相応しい、優しさと狂気が入り混じったメロウナンバー。
悪しき者を浄化するような優しく包み込むようなアルペジオ、それをなぞるかのようなアコースティックギター、躍動するベースとドラム。
淡々と始まりながらも、徐々にヒートアップし聞き手に訴えかけてくる京の声。
間奏のフレーズがオリエンタルな雰囲気を纏っていてエキゾチック。
最後を飾るだけあり、このアルバム内で一番荘厳な印象があるのも確か。
UROBOROS 総評
全体的に曲展開が複雑なものが多く、アルバム初聴の段階では難解という印象が第一にあります。
しかし、その難解さの中にも耳障りの良いフックがあり、聴き手の琴線に触れるものがあります。
これはシャウトとメロディの比率がちょうどよく、全体的な印象としては前作よりも聴きやすいことが起因しているはずです。
そして、全アルバムからの京の成熟度が抜き出ています。声を職人的に操る領域に達し、表現の振り幅、シャウトの技術が飛躍。
メロディのキーが作品を追うごとに高くなっている京ですが、本人の意図としては「出るか出ないかギリギリの音域をあえてハメることで、緊張感や張り詰めた感情を再現できる」とどこかのインタビューで言っているのを読んで、「なるほどな」と思った記憶。
これまでDIR EN GREYをノーマークだった層にも彼らの存在をアピールすることに成功した渾身の一枚。
まとめ
前作のMARROW OF BONEが過渡期とするなら、このアルバムは間違いなく成熟された大傑作。
普遍性から離れた音を好む耳の肥えたロックファンであれば、このアルバムの芸術性の虜になること間違いなし!
次作、DUM SPIRO SPEROではこの路線を基軸に更にマニアックに深い底へと到達します。
以上、UROBOROSのレビューでした。