
前回のレビューに引き続き、今回はDIR EN GREYのセカンドアルバム"MACABRE"についてご紹介します。
ファーストアルバムであるGAUZEの紹介記事はこちらからどうぞ!
MACABREについて
発売日 2000年9月20日
ファーストアルバムはX JAPANのYOSHIKI監修の下でしたが、今作よりセルフプロデュースになります。(先行シングルの二作を除く)
前作からおよそ一年ぶりに放たれた今作は、よりディープにライブの演出を想定した楽曲が連なり、より重厚な世界観を構築するという意識の中で創り出されました。
アルバムを通しての曲順や構成は前作GAUZEと対比するカタチになっているのも特徴的。
いわゆる「正統派なヴィジュアル系」の完成形とも言える本アルバムは、それまでの先人達のヴィジュアル系の様式美を継承しつつ、それをよりマニアックにDIR流に昇華したものと言えます。
初回盤は特殊なトールケース、数珠入りと仕様もカナリ凝っています。
CDケース背面の曲目の数字はロシア語表記になっています。
アルバムを通しての全体の流れが前作よりも統一感があります。
CDの収録時間ギリギリに収まったこのアルバムは聴き応えバツグン。
MACABRE 収録曲レビュー
1. Deity
民族音楽を彷彿させる不気味なイントロからヘヴィなバンドサウンドで幕開けを飾ります。
Deityとは神の意味。Godとの違いは何ぞや?と思う方もいらっしゃると思いますが、説明すると長くなるのでここでは省略。気になったら、ぜひ調べて見て下さい!!
その名に相応しい曲の構成と展開。詩はロシア語の単語から成り立ち、メロディーはハンガリー舞曲第5番から用いられていることもあり、余計に厳かで謎めいた雰囲気が出ています。
歌が入る前のツインギターのアルペジオの絡みがキレイです。
これまで京は英語、ドイツ語、フランス語、ロシア語と駆使してきたので、次はスペイン語?イタリア語?それともアラビア語か!?個人的に新たな言語を使用されるのかが気になるところ(笑
この曲の雰囲気は後のUROBOROSに通じるものがあります。
個人的には、このアルバムで1、2位を争うほど好きな曲です。
2. 脈
GAUZE発売後に放たれた先行シングル。
変拍子を取り入れているこの曲はDIR EN GREYらしさを感じます。
とても中毒性があってクセになる曲。
Aメロはシャウトを中心に激しく、Bメロはメロがありつつもバックコーラスはシャウト、そして、サビではメロディアスに駆け抜ける。
「残-ZAN-」とも「Schweinの椅子」とも違い、それまでのDIR EN GREYにありそうでなかった展開。
この手法は、現在のビジュアル系に大きく影響を与えて受け継がれています。
そういった意味では元祖的な曲?
サビのバックで奏でられているアコギがいい味出してます。
詩はカニバリズムを意味しているのでしょうか。
ブックレットの挿入写真がシーマンのホルマリン漬けみたいで不気味です(笑
3. 理由
理由と書いて、ワケと読みます。
Shinyaのドラムは比較的ビートに徹し、Toshiyaのベースは随所でウネリを出しながら歌っています。
京の声づかいが曲全体を通してエモーショナルで、GAUZEの頃との差は歴然。曲最後の「君を想う」の歌い方に京節を感じます!
このアルバムを聴いた際、一番耳馴染みが良くて好きになった曲です。
前作の「予感」同様、Die原曲はメロディアスで初心者にも易しい。
シングルカットされてもおかしくない曲ですが、あえてそれをしないところがDIRらしいですね。
どこかLUNA SEAのHURTを思い出させます。
ブックレットに挿入されている詩と写真から、投身自殺を図った主人公をイメージすることができます。
4. egnirys cimredopyh +) an injection
タイトルはレコ倫対策のため、オカシな表記になっています。
hypodermic syringeとは皮下注射機、an injectionは注射、注入の意。
薬物中毒者の曲でしょうか。
Toshiya原曲ということもあり、ベースが前面に押し出されています。
詩も曲の展開も一筋縄ではいかず、ベースソロの直後に京流のラップが入ったり、間奏のあとは急にポップになったりと変態要素が盛りだくさんでギミック満載。
ノイズのような薫のギターパートが何を弾いているのか、さっぱりわかりません(笑
5. Hydra
今改めて聴いても古さがなく、スゴい格好良いです。
当時のヴィジュアル系でこういう曲を作った薫のセンスはさすがに尽きます。彼の作曲スタイルが多くの洋楽からインスピレーションを受けているのが伺えます。
打ち込みのシーケンスがインダストリアルっぽく、ギターのアルペジオが妖しい浮遊感を醸し出してます。
曲の構成やリフ自体はシンプルながらも、途中で突如、宗教めいたサウンドを上手くはめ込むことで、この曲の凶暴さや混沌さがより強調されています。昔はビックリしましたけど(笑
後の鬼葬やsix Uglyの楽曲で感じられるDIRの持つハードコアやミクスチャースタイルは、この当時から頭角を現していたことをこの曲から確認できます。
サビ?ではひたすら「DEAD BORN」とシャウトで押し倒すところに気合いを感じます!
6. 蛍火
戦時中を題材にした曲。
タイトルに忠実な、和風テイストのバイオリンの音色が詩の雰囲気にもマッチしています。
序盤の打ち込みのドラムが燻んだ雰囲気を出していて、戦時中という過去、詩の「古ぼけた」というイメージにピッタリです。
語りかけるような低音ヴォーカルが響くAメロ、徐々に高まっていくBメロ、力強くも儚げなサビが叙情的。
ギターは始終クリーントーンに徹しています。
これまた、ブックレットの挿入イメージ写真が不気味です。
7. 【KR】cube
発売時のインタビューで「Cage」から派生したのがこの曲であると語っています。
イントロに散りばめられた細かな打ち込み音、京の喘ぐような声、彼らの遊び心を感じます。
ワウベースが特徴的で、裏打ちで刻まれるハットが聞き手を踊らせます。
ファンの方は十分ご承知かと思いますが、【KR】が「くるり」で、それを三回繰り返すから三乗の「cube」って言うのはもう有名な話ですね、はい。
曲名とは裏腹に詩はとても和風ですが、危なげな表現は英語で表記されています。
そして、サビの詩がとても斬新。だって擬音ですよ!?
初めて聴いたとき、「ああ、こんなのもありなんだ!」と中学生の固定観念を壊してくれました。
単純なフレーズながらも左右に飛び交う、最初のサビ後のツインギターの絡みが格好良い。
イントロのフレーズを繰り返した後のアウトロの展開の仕方がDIRっぽいなと。
詩に祇園と出てきたり、京の地元愛?を感じます。
8. Berry
ツタツタ系のドラムを用いたDIR流パンクチューンで、児童虐待をテーマにした曲。
詩は虐待されている子どもが親を殺すといった内容。
冒頭の子どもによる英語のセリフが奇妙さを出しています。
曲のテーマとは真逆に、サビはポップ爽快に駆け巡ります。
サビのDieのカッティングギターが良いアクセントになっています。
ピストルが持ち出せるあたり、舞台はアメリカでしょうか?
9. MACABRE-揚羽ノ羽ノ夢ハ蛹-
本作の主軸であり、象徴。
タイトルに漢文を用いているあたり、こだわりを感じます。
10分を越える大作ですが、前アルバムの「mazohyst of decadance」のような気だるさは皆無で、妖艶な歌メロが始終曲を引っ張って行きます。
曲の構成、メロディー、詩どれをとってもDIR EN GREY流の「美しさ」を感じますし、この雰囲気こそが彼らの核と言っても過言ではないです。
イントロのドラムソロからジワジワと聴き手を滾らせ、弦楽器隊が入った途端、一気に引き込まれます。
途中のギターアルペジオが秀逸で、ぼく自身もこのアルペジオをギターでコピーしました。
ギターソロの前の展開は蝶の羽化前を、ギターソロが始まると同時に蝶が羽を広げて飛び立つイメージを聞き手に与えます。
こういう尺の長い曲をやるのもDIRの特徴の一つですね。
10. audrey
イントロはDie曰く、えせブルースとのこと。
このアルバムの中では、音数、構成、どれをとってもこの曲が一番シンプル。
しかし、そのシンプルさがかえってDIRの曲の中では新鮮だったりします。
彼らなりの歌謡曲がこの曲には表れています。
オーバードライブが効いたカッティングギターが強く耳に残ります。
11. 羅刹国
残-ZAN-を踏襲するかのような極悪ナンバー。
ギターはひたすらパワーコードでリフを刻み、とにかく勢いで押しています。
詩には難しい漢字が用いられており、曲の危なさや混沌さをより深めています。
当時中学生だったぼくは漢和辞典片手に必死に解読しましたよ(笑
それから、羅刹って何?と親戚のおじさんに聞いたところ、「北斗の拳に出てくるヤツだ!」と教えられましたが、北斗の拳世代でないぼくにはイマイチピンと来ませんでした・・・。そこで、この曲を聴かせたところ、「これは修羅の歌だ!!」とか何とか言っていたのが印象深いです(笑
何気、詩中に「此乃世は修羅乃国」と出てくることから、あながち間違いではない!?
この曲の詩が北斗の拳をイメージして作られたのかは全くもって不明ですが、京の畳み掛けるような全開のシャウトはケンシロウの北斗百裂拳に引けを取らないと言えるでしょう。
12. ザクロ
キレイなアルペジオから始まるこの曲は、DIR流の演歌と捉えることができます。
なぜに演歌!?って話なんですけど、京の歌い方が怨念や憎悪を感じさせるからです。
次作である鬼葬の中の一曲、「蟲-mushi-」においてもDIRというか京流?の演歌を感じます。
普通のバンドならただのキレイな曲で終わりそうなところを、あえてそうしないところがとてもDIRらしい。
13. 太陽の碧
アルバム最後を締めくくるに相応しいミディアムテンポの爽快な曲。
先行シングルということもあってか、MACABREの曲目の中ではこの曲だけやたらと毛色が違うのですが、ここに配置されたことによって、アルバムの雰囲気を壊すことなく、むしろ、とても良い締めくくりをしています。
詩中にも「真夏」とあること、加えてキレイなコード進行が透き通った爽やかな夏を連想させます。
ラストサビ後の「傷付けられて傷付け合って・・・」という詩がステキですね。
透き通ったDieのアルペジオのリフレインでこのアルバムは終わりを迎えます。

MACABRE 総評
これがDIR EN GREYだ!という世界観を世に提示し、バンドとしての秘めていたポテンシャルが大きく表現されたアルバムです。
京の表現がよりエモーショナルになり、ベースも前作に比べてグッと前に出てきています。
楽曲のクオリティも上がり、内容もより濃く、トータルの完成度も前作に比べて高いです。
曲のバラエティーに富んでいながらも、散漫になることなく統一感を出しているのはさすがの一言。
ain't afraid to die
発売日 2001年04月18日
MACABREのリリース後に出されたシングルですが、次アルバムの鬼葬には収録されていません。
というのも、MACABREの世界観はこの曲で完結するからです。
ベストアルバムを除き、オリジナルアルバムには収録されていないシングル曲なので、ここでレビューします。カップリングはリミックスなので、表題曲のみの解説になります。
ベストアルバムだと「DECADE 1998-2002」または「VESTIGE OF SCRATCHES」に収録されていますが、後者に収録されている方を聴くのがベスト。
タイトルに込められた"ain't afraid to die"とは「死を恐れない」という意味。当時、MACABREのツアー中、京の左耳突発性難聴によりライブ活動の停止を余儀なくされた彼ら。そんな逆境を乗り越えたからこそのタイトルで、その先の意思表示がここに表れていると捉えることができます。
ゆっくりとしたピアノから始まるバラードで、序盤はピアノと打ち込みとヴォーカルのみ。途中からバンドサウンドのアンサンブルが加わります。
途中、ブレイク後のギターノイズを経たあとの展開がドラマティック。
終盤では子どもたちのコーラスやストリングスが入ることで、曲の壮大さが増します。
とくに、このコーラスが教会の中で歌う聖歌隊のような雰囲気を出していて、終盤の盛り上がりを引き立てています。
詩に雪というワードが登場することから、冬の夜に聴きたくなる曲ですね。
ちなみに、ぼくにとってDIRデビューの曲がこれでした。
「DIR EN GREYって知ってる?」と友達に聞いたら、「1枚だけCD持ってる」と言って、たまたま貸してくれたんですよね。
それまで、俗にいうヴィジュアル系という音楽に触れてきたことがなかった自分にとっては、このジャケットがすでに不気味で怖かった・・・。
曲を聞いての印象は、長い曲でスゲエ歌い方をする人だなと(笑
そんな個人的な思い出がある曲でもあります。
まとめ
一般的に、MACABREまでが王道のヴィジュアル系の流れを昇華したDIR EN GREYと言われています。
以降の流れは、それまでの健在だった様式美や固定観念を壊し、独自のスタイルを築き上げようとよりハードになっていきます。
転換期へ向かう前の一種の完成系であるMACABREは、のちのVULGARやUROBOROSにとても近いものを感じます。
以上、MACABREおよびain't afraid to dieのレビューでした。