今回はDIR EN GREYのサードアルバム"鬼葬"についてご紹介します。
GAUZEおよびMACABREの紹介記事はこちらからどうぞ!
鬼葬について
発売日 2002年1月30日
MACABREツアー中に起こった、京の突発性難聴を乗り越えて生まれた鬼葬は、バンドの変化を大きく感じさせる作品です。
ライブでの演出を想定した楽曲で彩られた前作MACABREでしたが、本作はライブでのノリを単純に意識して作られたアルバム。
頭で考えるな、身体で感じろ!と言った表現がピッタリな楽曲たちから鬼葬は成り立っています。
これまでが中に向かって行くイメージだとしたら、今作は外へ向かって行くイメージ。
そんな本作は、和製エログロ・ホラーアルバムという印象。
DIR EN GREY流のハードコア・パンク、ミクスチャーが詰まったアルバムで、弦楽器隊はダウンチューニングを採用したりと新たな試みも。
アルバム全体を通して京の詩は猟奇的かつ変態で、これまで以上に危なさを増しています(笑
それは正に、これまで築き上げた様式美や世界観を壊して新しいモノを作り上げるという意志の表れ。
また、一見普通に見えるCDケースですが、初回盤には2種類の歌詩カードが存在しているあたり、彼らの遊びゴコロが伺えます。
本来の歌詩カードはCD本体が収まっているプラケースの下に隠されているのは、当時話題になりましたね。
で、この歌詩カードが独特なにおいを放っています!
きっと、こう思っている方が他にもいるはずです(笑
鬼葬 収録曲レビュー
1. 鬼眼-kigan-
これまた、一曲目に相応しいイントロからの幕開け。
妖しさマックスで詩的にも和製ホラーという言葉がしっくりきます。
サビの詩がこれまた奇怪な四字熟語です(笑
鬼葬ではギターソロらしいギターソロが少ないのですが、この曲では薫のギターソロが炸裂しています。
ギターソロ後のDieのフレーズがこれまた良き。
「京の都」と出てくるあたり、ここでもまた京の地元愛を感じることができます(笑
エンディングのサビの、歌い方がシャウトに変わり終わりに向かって高揚して行く部分が堪らないですね!!
2. ZOMBOID
このアルバムの中で、一番直球ド変態な詩はこの曲でしょう。
オブラートのカケラもありません!
これまでの耽美で正統派な彼らのイメージからは想像もつきませんね(笑
イントロの同期が良いアクセントになっています。
一般的な目線でいくと、決して聴きやすいとは言えないのですが、曲自体はキャッチーさと不思議な中毒性を持っています。
鬼葬がライブでのノリを意識して作られたことがよく分かる曲の一つ。
3. 24個シリンダー
Die原曲のミディアムナンバー。
個人的な位置付けとしては隠れた名曲。
演奏陣の淡々とした演奏が、徐々にヒートアップしていく感情爆発の京の歌い方と相反していて面白いです。
24個っていうのは時間を意味しているとのこと。
なるほど、確かに時間は24時までですし、「時」というキーワードが随所に散りばめられている詩ともうまくリンクします。
音域的にも、自然体な京の声の良さが表れている曲です。
4. FILTH
MACABREの完結編である「ain't afraid to die」の後、世に送り出された先行シングル。
このときのアー写がもの凄いインパクトで(笑
それまでは様式美的を継承したキレイに見せるヴィジュアルだったのですが、これ以降はクラシカルな部分を壊します。
ハードさ、グロテスクさを打ち出した独自のヴィジュアル路線になります。
特に京と薫のヴィジュアルが洋モノのホラー映画か!?っていう。
そんな見た目に引けを取らないぐらいに、詩も強烈。
よくこれをメジャーのシングルで出して、商業的にも成り立ったな(週間オリコンチャート4位)と感心してしまいます。
ラストサビ後に歌われる奇怪な詩が、バックのクリーンのアルペジオと相反し、汚さと美しさの対比を上手に表現しています。
5. Bottom of the death valley
Toshiya原曲。
揺られるようなベースのフレーズから始まり、凛とした京の声、Dieの指弾きで奏でられた優しいクリーントーンのギターの音が調和をなしています。
その進行ゆえに、最初は心地良い静けさを感じさせたバラードかと思いきや、見事にそれを打ち砕くピッキングハーモニクスが効いた攻撃的なリフへと展開。
このフレーズが毒しさを放っていて良いですね(笑
実に予想がつかなく、とてもDIRらしいです。
ソロも小洒落た雰囲気を出しています。
前作までは王道的なヴィジュアル系の甲高いシャウトを多用していた京ですが、本作から徐々にそこから脱皮していくのが伺える曲でもあります。
6. embryo
近親相姦を歌った先行シングル。
沸点の低いミディアムバラード。
詩から映し出される情景、Dieのアコギのアルペジオのようなフレーズが、どこか温かさよりも冷たさを感じます。
本作ではZOMBOIDに引けを取らずストレートな詩で、画も想像しやすいです。
しかし、シングル発売時は、こちらの詩の内容がレコ倫に引っかかり、本来のバージョンではないものが世に出されました。
鬼葬には従来の詩で収録されています。
本作発売時のインタビューで、京は「早くかけた詩ほどレコ倫でNGをくらう」と言っています。
ZOMBOIDやこの曲の詩はほんの短時間で書き上げたとか。
Aメロ、Bメロと京のヴォーカルは淡々としていますが、サビでは広がりを見せます。
7. 「深葬」
今作のインスト3曲のうちのひとつ。
サイバーなシンセ音と、何を言っているのか全くもって不明なつぶやきからなるインスト。
曲としては若干洒落っぽい感じもあり、アルバムの中のちょっとした休憩的な位置付け。
8. 逆上堪能ケロイドミルク
この曲はすげえタイトルだなって印象がまず第一。
ケロイドミルクってなんだ?っていう。
その意味不明さが当時中学生だったぼくを魅了したのも確かです。
前作MACBREの「Hydra」で垣間見れた、細かな打ち込みとバンドサウンドの融合が上手く現れている楽曲。
和風的なイントロ、四つ打ちのドラム、シーケンスのように淡々と刻まれる薫のギターフレーズ、引き算的プレイをしているDieのギター、コーラスをかけたToshiyaのベース、薄く鳴っているシーケンスが聴きどころ。
京のファルセットヴォイスもこれまでとは違った新たな一面を覗かせています。
9. The Domestic Fucker Family
インディーズ時のミニアルバムMISSA収録の「S」以来の京原曲。
Fuckerと叫ぶコーラスとの掛け合いがライブでの盛り上がりをイメージさせます。
リフはシンプルなんですが、意外?と曲の展開はそうでもなかったり。
途中、2分15秒あたりのシャウト?がTHE MAD CAPSULE MARKETSのKYONOを連想させます!
10. undecided
未決と題されたこの曲は、京の囁くような声と張り上げるような声が交差するのが印象的。
Die、薫ともにアコースティックギターをフューチャーし、それまでの彼らにはなかったクールな一面を打ち出しています。
また、ブルージーなコードの響きが夜の海や波を連想させます。
サビでは、Toshiyaお得意?の歌うベースフレーズが炸裂。グリスが効いたフレーズも耳に残ります。
序盤の京の囁くような歌い方、中盤のツインギターが絡む間奏を経た後の展開が静と動を表しています。
11. 蟲-mushi-
undecidedに続くアコースティックナンバー。
同じアコースティックにも関わらず、こちらはマイナー調全開で悲痛感満載です。
MACABREの「ザクロ」のように、怨念めいた京の歌唱がDIR流の演歌を感じさせます!
そう、京節全開の曲なんです!
「白死」という独自のワードが詩の中に出てくるのも注目すべき点。
これまでの二作のアルバムでは「mazohyst of decadence」や「MACABRE-揚羽ノ羽ノ夢ハ蛹-」といった長尺の大作がありましたが、本作ではこの曲がそのような位置付けでしょうか。
アウトロの展開は薫曰くシャレだとか。
アコースティックな楽曲だけに空気感もどこか生々しさがありますね。
12. 「芯葬」
このインストに関しては、どうコメントすれば良いのか・・・。
すごい説明に困ります(笑
次曲への休憩であり繋ぎ的な。
13. JESSICA
ここからアルバムの終盤へと差し掛かります。
今作の中で唯一、毛色が違うアップテンポで爽快なナンバー。
先行シングルということもあり聴きやすく、DIR流のメロディックパンクといった印象。
出だしの「少年はベルリンの壁に 唾吐き付け 壊しても何一つ変えられずに」という詩がとても好きです。
「歌うことが唯一の支えで」の後は詩には表記されていませんが、「弱いね」と言っているのが聞き取れます。
また、詩中のEdward H. Geinとはアメリカの連続殺人鬼エド・ゲインでしょうか。
サビに入る直前のコーラスの掛け合いが「わっしょい!」に聞こえるのは自分だけ?笑
14. 鴉-karasu-
井戸の底から何か悪いものが出てきそうな怪しいイントロです(笑
薫のタッピング奏法によるフレーズがそれをより一層際立てています。
曲の持っている凶暴性やダークさは今作一。
ノリを出す上で、ユニゾンがキーになっている曲です。
特にラストサビ?の二回目の繰り返し部分でドラムパターンが変わったところで徐々にノリを出していき、表打ちに変わりラストの展開に入っていく箇所が良いですね。
そして、その終盤の京の歌いは、良い意味でテキトーで小馬鹿にした感じが出ています。
15. ピンクキラー
前曲から間髪入れずに始まります。
聴くものを圧倒するこの始まり方、最高です!
このアルバムでは最速のキラーチューン。
「ピンクキラー」というタイトルが暴走族のグループ名みたいだなと思うのはここだけの話(笑
「人体から及ぼす愛情...」の部分が特に好きです。
最後は狂ったように絶頂へと向かい、何を言っているのか全く分からないシャウトで終わりを迎えます。
最後の「あーあ」というところに妙な平和さと遊び心を感じますね(笑
16. 「神葬」
「ピンクキラー」で聴く者を昇天させたあとは、その熱を宥めるかのようなインスト!
穏やかなピアノによるインストが、それまでの凶暴性や激しさを浄化します(笑
このピアノは映画ゴッドファーザーの「愛のテーマ」を意識して作られたとか。
確かに言われてみれば何となく雰囲気は近いものがありますね。
タイトルも神を葬るですから、うまいことリンクします!
鬼葬 総評
これまでの既成概念や固定観念を取り払い、DIR EN GREYの大きな変化点になった本作は、唯一無二のオリジナルへと向かっていく彼らの姿勢を感じることが出来ます。
それまでの俗に言うヴィジュアル系というジャンルから逸脱しようという、新しい試みが多く見られる実験的なアルバムが鬼葬です。
結果として、このアルバムが放つエログロ要素は、既存のヴィジュアル系というイメージを壊し、新たなヴィジュアル系という概念を打ち出しました。
まとめ
鬼葬は、それまでのDIRとベクトルが全く異なり、視覚的にも聴覚的にも後世のヴィジュアル系バンドに多大な影響を与えたアルバムです。
メジャーに行くことで激しさを失うバンドが多い中、彼らはそれとは真逆により激しくなって行ったところも注目すべき点。
結果として、その独自のスタンスが懐古的な一部のファンを引き離し、逆にコアなファンをより一層、虜にしたのも確かです。
次作のsix Uglyではヘヴィさにさらに磨きをかけます!
以上、鬼葬のレビューでした。