【その3】フランス私小説を書くことにした。【ズッカ自伝】
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スーツケースを求めて

 

来たるべきフランス旅行に向けて、丸の内のリモワストアに足を運んだ。

立地が立地(リッチ)なだけに、外のウィンドウから透けて見える店内は、すでに気品溢れる優雅な雰囲気を発している。

その界隈で名を轟かせ、多くの人を魅了するのも納得。さすがの一言だ。

いざ、中に入ると、店内には色とりどりのスーツケースがキレイに並べられていた。

これまで訪れたことのないような高級感あふれる店の佇まいが、ぼくをうっとりとした気分にさせた。

そして、ぼくの心をすでに鷲掴みにしていたスーツケースが、奥の方から目に飛び込んできた。

パソコンの画面越しに見た、憧れのスーツケースは、実物もぼくの期待を裏切ることはなかった。

どうやら、一目惚れしたぼくの直感は間違っていなかったようだ。

他にも様々なスーツケースが主人を待つかのように、我先にと訴えかけているようだった。

しかし、ぼくにはトパーズチタニウムのゴールド以外の選択肢はなかった。

しばらく、その場で立ち尽くしていると「何かお探しでしょうか?」と優しい声で訪ねてくる女性の声が耳に入る。

その女性の身なりと立ち振る舞いから、ベテランであることをすぐに察した。

すかさず、ネームプレートに目を向けると、木村と苗字が記してある。

ぼくは木村さんに、フランスへ行くこと、ゴールドのスーツケースに一目惚れをしたことをありのままに告げた。

すると、彼女は物腰の柔らかな口調で、ぼくの発言に応えてくれた。

「チタニウムモデルは高価ではありますが、二世代、三世代に渡って使えます。年季が入ることによって、傷や痛みも味になってくるのも特徴の一つです」

これを聞き、迷うことなく、ぼくは購入を決意した。

フランス旅行にあたって準備した、作りたてのクレジットカードを取り出し、ぼくは会計を済ませた。

これが、ぼくにとって初めてのクレジットカードでの買い物だ。

会計後、初めての海外旅行だということが分かると、木村さんは、アフターケア、空港到着時の破損チェックや申請対応など事細かに教えてくれた。

この時、ぼくは強く思った。「ここで買い物をして良かった。ここに訪れて本当に良かった」と。

木村さんは、ぼくのことなんて覚えていないと思うが、ぼくの中では木村さんの印象は強く、今でもハッキリと覚えている。

なぜ、こんなにも記憶に残っているのか?

それは彼女の接客の良さがすべてを物語っている。

人生で接客を受けた中で間違いなくトップクラス、いや、一番と言っても過言ではないかもしれない。

それぐらい、彼女の接客は素晴らしい対応だったのだ。

インターネットが普及した現在では、わざわざ店舗に行くことなく買い物ができる。その上、ネット上の方が金額が安いなんてことも珍しくない。

なんて便利な世の中だろう。

だけど、人と人とを通じての面と向かった出逢いは店頭にしかないのも確かだ。

実際に店頭に足を運んで、見て触れて接客を受けることは、ときに値段以上の価値と喜びを与えてくれるのだということを実感した。

今度スーツケースを買うときも、同じように木村さんの接客を受けて買いたい。

それだけ彼女の接客対応に価値のあるものを感じたのだ。

 

つづく。

 

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